第4回日中財政研究会が開催されました
- jcpublicfinance
- 7月19日
- 読了時間: 4分
開催日時: 2025年7月19日(土)13:30~
場所: 専修大学 生田キャンパス 3号館 333教室
発表テーマ: 中国型分権的年金システムに関する財政分析
発表者: 宋宇(帝京大学宇都宮キャンパス 経済学部地域経済学科 准教授)
活動報告
2025年7月19日に第4回日中財政研究会を開催いたしました。今回は帝京大学経済学部地域経済学科の宋宇准教授をお招きし、「中国型分権的年金システムに関する財政分析」をテーマとした研究発表を行いました。
研究の背景と問題意識
宋准教授の研究は、中国における年金財政の現状と課題を多角的に分析したものです。中国では2019年に財政移転制度改革が行われ、これが政府間財政関係の新展開として位置づけられています。特に注目すべきは、改革後に新設された「共同財政事務配分の移転」という項目で、これが一般性財政移転として最も大きな割合を占めており、その中でも基礎年金への財政移転が25.5%(2022年度決算)に達しおり、制度改革後の中国年金制度及び関連する年金財政の全体像を明らかにしました。

中国型分権的年金システムの特徴
中国の年金制度は「3本柱」構造を採用しており、日本の「3階建て」年金構造との比較分析が行われました。中国の年金体系は、第1柱の基礎年金(公的基礎年金)、第2柱の勤め先による補充年金、第3柱の個人年金から構成されています。特に注目すべきは、中国の加入者数が1億663万人と日本の6,744万人を大幅に上回っていることです。
中国型分権的年金システムの最大の特徴は、全国統一の制度枠組みを持ちながら、省級政府に大きな裁量権が与えられている点です。3本柱の年金体系、年金保険料と年金給付の基準は全国で統一されていますが、基準を満たせば各省級政府が異なる年金制度、保険料設定、給付水準を定めることが可能となっています。
年金財政の構造分析
研究では、中国の年金財政を支える2つの基金について詳細な分析が行われました。「基礎年金基金」は社会保険基金の一部として機能し、保険料収入、公費投入、利息から構成されています。一方、「全国社会保障基金」は2000年に設立され、中央政府の公費投入、国有資本による収益、投資収益の3つの資金源から構成され、総資産は3兆146億元に達しています。
地域格差と財政課題
研究で特に注目されたのは、省級政府間の年金財政格差です。2022年度全国決算データの分析により、都市農村住民基礎年金と都市農村職員基礎年金の間には約18倍の給付格差が存在することが判明しました。また、住民基礎年金における公費投入は保険料収入の2.3倍に達するにもかかわらず、給付額は職員基礎年金より大幅に低いという構造的問題が明らかになりました。
地域別の分析では、東北3省(遼寧、吉林、黒竜江)において年金財政バランスの悪化が顕著であることが判明しました。特に黒竜江省では基金残高が底をつき、国家財政への依存度が高くなっています。遼寧省は東部地区に属するため、国が定める年金給付基準の50%を負担しており、東北地域の中でも相対的に財政責任が大きいという特殊な状況にあります。

研究の意義と今後の課題
本研究は、これまで制度説明に留まりがちであった中国年金研究に対して、財政分析の視点から体系的な分析を提供した点で重要な学術的貢献をなしています。特に、2019年の財政移転制度改革が年金財政に与えた影響を定量的に分析し、省級政府の財政責任と地域格差の実態を明らかにした点は、今後の政策立案において重要な示唆を提供するものです。
今後の研究課題として、宋准教授は省級政府による基礎年金制度の具体的な違いや、年金給付水準の差の実態についてより詳細な分析を行う必要性を指摘されました。また、中国の急速な高齢化進行に対応するための持続可能な年金制度設計についても、引き続き研究を進めていく予定です。
討論と今後の展望
発表後の質疑応答では、参加者から中国の年金制度と日本の制度との比較、デジタル化が年金制度に与える影響、人口移動が年金財政に与える影響などについて活発な議論が展開されました。特に、中国の分権的年金システムが地域間格差を拡大させる可能性と、それに対する政策対応の在り方について深い議論が行われました。
<研究会のさらに詳細な情報は研究会事務局 (jcpublicfinance@gmail.com)までご連絡ください>
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